理塘から西進すると間もなくチベット自治区に入る。理塘から大きな道が北と南に出ており、自治区に向かうかの分岐の町と言える。思い切って西に向かうのか、はたまた北か南に逸れるのか、すぱっと諦めて東に戻るのか、悩みに悩んだ。いろいろな人にメールを飛ばしたり、ネットを通じて状況を確認した。集まった情報は芳しいものではなく、現状の自治区内はかなりの警戒度であり、通常のパーミッションさえ下りないということである。
標高4000mでの警察のチェックを含めて何度も身分証明等をさせられ、身をもって彼らの気の入れようを知っている。理塘の町にも数十m間隔で警察が目を光らせており、集まった情報と合わせて、行くことは賢明な判断ではないと理性が告げてくる。ただ、積もりに積もったチベット走行の想いは相当のもので、頭での判断と心の折り合いをつけるのに時間がかかった。理塘に5日も滞在することになったわけは、まさにそれが大きい。目の前に夢にまで見た場所が広がっているのに行かないのか、とりあえず行ってみればいいんじゃないのか、何も考えずに突っ込んでしまえばいいじゃん、なんていう心の声が止まなかった。次があるさ、タイミングではなかった、もっと良い時期に走ることにする、という頭の判断が心の声を落ち着かせるまでにはどうしても時間が必要だった。
僕はこの旅で、危険なことや無謀なことを好んでするつもりはない。君子危うきには近寄らず、の格言を胸に秘めてルート選択をしている。その考えの中でこのチベット自治区内走行の断念は、「勇気ある撤退」であると自らに言い聞かせ、暖かそうな南に進路を取ることにした。心にすっと溶け込むまで悩んで決めた後は、もはやそれが当然の選択だった心持ちになり、四川省の理塘の南に位置する雲南省の都市シャングリラへ足を運んでみることにした。そしてそれを決めた日の出来事。
僕「じゃあシャングリラまで一緒に自転車で行こうぜ?」
男「そうしよっかな。」
理塘に滞在した5日間の間に宿で1人の日本人と会った。彼の名前はノロタ君と言って、大学の春休みの期間で中国を回っていた。僕と同様のルートで成都から理塘まで来ており、シャングリラへ向かうとのこと。移動手段は自転車ではなくバス。そこで自転車旅に誘ってみたのだ。
なんとまさかの参加。こういったノリや勢いっていいよね。自分の考えの枠の外からの誘いや突発的な出来事に対応出来る柔軟性のことを、僕は「ノリ」や「勢い」といった言葉で表現したりするけれど、こういうのが人生を面白くする気がする。未だに僕が旅を続けているのは、予定通りに世界を回っているのではなくて、旅先で思いもよらなかった出会いやイベントや己の感受性を刺激するような「何か」があるからだ。想像以上の「何か」に柔軟する態度を、僕もいつまでも忘れないようにしたい。
彼は理塘にて440元(約5500円)のマウンテンバイクを購入し、翌日に鳥葬を一緒に見た後、シャングリラへの道を走り出した。チベット自治区に行くことは断念したものの、旅のパートナーを得て、俄然面白くなって来た。
一転2人旅に。これだから旅はやめられない。
やはり警察のチェックはある。
絡んできたかぶり物をした子供達。
チベットの道
・[チベット]1.全ては始まった
・[チベット]2.まさか再び会えるとは
・[チベット]3.何が足りないのかが分かった
・[チベット]4.そうは問屋が卸さない
・[チベット]5.必要な時間
・[チベット]6.チベットとはこんなところだよ
・[チベット]7.風邪+高山病+峠+夢
・[チベット]8.警察に連れて行かれた
・[チベット]9.思い込み
・[チベット]10.標高4000mにて絶景の道
・[チベット]11.チベット人の家に泊めてもらう
・[チベット]12.出発して5分後にチベット人の家に招かれる
・[チベット]13.鳥葬を見て死を想う
・[チベット]14.勇気ある撤退と旅のパートナー
・[チベット]15.チベット人の結婚式に参加
・[チベット]16.浴室に泊まる
・[チベット]17.チベットの家づくりに参加
・[チベット]18.チベットの学校潜入
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