理塘から45km走って来た。今朝は鳥葬を見てからの出発であったため、そのときには20時近くで辺りは完全な闇に包まれようとしていた。道を逸れたところに村があり、そちらに宿と食堂があることを願って向かう。村の入り口で、5人程の人影から声をかけられた。もう暗がりで、どんな人たちなのかは分からない。いずれにせよ宿を確保しなければならないので、声をかけてきた方向に自転車を押して近づいていった。
顔が分かる範囲まで寄ると、5人は若者であった。僕は村にある宿のことを尋ねた。とはいってもチベット語を話せないので、ジェスチャーで、である。すると彼らは村に宿はないと言い、何泊するんだ、と聞いてきた。1泊と答えると、ならばうちに泊まっていいよ、と言ってくれた。この会話はすべてジェスチャーで、しかも滞りなく行われた。一緒にいたノロタ君は驚きの表情を浮かべていた。
案内された家屋は1階建てで長方形の形をしていた。壁際が椅子になっており、その前にテーブルがある。テーブルの上には多くの食べ物や飲み物が所せましと並んでいた。テーブルの前のオープンスペースで、女性たちが鳴り響くチベット音楽に合わせて輪になって踊っていた中に僕らが入った途端、一斉に目線が向けられる。ここでの第一印象は大事で、「タシデレ」とチベット語で笑顔を向けると、皆の眼が穏やかになった。
案内してくれた若者の1人がご飯や飲み物を用意してくれて、その空気が周りにも伝染したのか皆から歓待を受ける。もうくたくたに疲れてお腹も減っている状態だけど、話せない言語とジェスチャーで周りとコミュニケーションを必死に取る。本当に有難い好意を示してくれた方々を失望させないように頭をフル回転させながら空気を読み、自分という人間を相手にどれだけ受け入れてもらうかを試しているこの時間が好きだったりする。流石に疲労が隠しきれなかったのでお先に宴の家屋を失礼した。就寝用の場所を案内してもらって寝たのは、ノロタ君と2人で1つのベッド。それはもう充分な話で、他の方々がソファーで寝ていた。しっかりと客人として扱ってもらっていた。
翌朝目を覚まして昨晩飲み食いして騒いでいた家屋の方を訪れると、なにやら昨日とは違う雰囲気。わけがわからずしばらく様子を見ていると、昨日の晩に写真を撮らせてもらった女性が着飾って俯いており、その瞳からは一筋の涙が流れている。状況や周りの反応と合わせて考えると、、、結婚!?
ということは、昨晩の催しは結婚の前夜祭!そんな大層なものによそ者である僕らを混ぜてくれたのか。プライベートな宴に図らずしも図々しく参加してしまった申し訳なさと、滅多に見られないものをひょんなきっかけから体験出来た嬉しさと、交錯した感情が持ち上がって中でただ驚きは隠しきれなかった。その上で被さってきたのは大きな大きな感謝の気持ち。
左側が花嫁。
祭司っぽい人がサングラスをかけて怪しすぎる。
こんな車でお出迎え。荒野に向かっていく車と家族の別れのシーンは、日本の結婚式とはかけ離れており、それは違う趣があった。
花嫁を乗せた車を見送った後、その余韻が冷めて去りどきを逃さないようにささっと準備し、僕らも見送られたのだった。
チベットの道
・[チベット]1.全ては始まった
・[チベット]2.まさか再び会えるとは
・[チベット]3.何が足りないのかが分かった
・[チベット]4.そうは問屋が卸さない
・[チベット]5.必要な時間
・[チベット]6.チベットとはこんなところだよ
・[チベット]7.風邪+高山病+峠+夢
・[チベット]8.警察に連れて行かれた
・[チベット]9.思い込み
・[チベット]10.標高4000mにて絶景の道
・[チベット]11.チベット人の家に泊めてもらう
・[チベット]12.出発して5分後にチベット人の家に招かれる
・[チベット]13.鳥葬を見て死を想う
・[チベット]14.勇気ある撤退と旅のパートナー
・[チベット]15.チベット人の結婚式に参加
・[チベット]16.浴室に泊まる
・[チベット]17.チベットの家づくりに参加
・[チベット]18.チベットの学校潜入
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