標高4000mを超える絶景の道を下った後、小さな町があった。その町には宿がなかったので、商店で食糧を買いキャンプ出来る体制を整えた。聞いてみると一山越えた10km先の町に宿があるという。疲労困憊だったので、出来ることなら宿泊したいと思った。19時過ぎだったので日暮れは確実だったが、もし行けるなら次の町まで行くつもりで走りだした。
上り坂の途中、僕の20m程前でバイクが止まった。2人組が何かしており、まさか襲われないよなと気をつけながら近づいていった。にこっと笑いかけて来た2人は、ロープを持っていた。彼らのジェスチャーによると、ロープでバイクと自転車をつなぎ、引っ張って行ってくれるらしい。ジェスチャー(お言葉)に甘えることにした。
時速25km程で道を上っていく。やや暗くなってきた中、宜しくない路面状況を注視することで精いっぱいだった。ブレーキが効かないも同然だから結構怖い。登り切った後はロープを外して、バイクとは切り離して下った。もう闇が近付いてきている中、バイクは僕を見守るように後ろから付いてきてくれた。
宿があると聞いていた町に着いたのは、もう日が落ちている20時。バイクで見守ってくれた2人組に寝る場所はどこか聞くと、彼らは自分たちの家を親指で指した。「うちに泊まっていけよ。」という無言のメッセージを受け取り、お邪魔させてもらうことにした。
1階は倉庫になっており、そこに自転車を置かせてもらう。ちなみに真っ暗である。そのまま2階に案内されるとそこには人がいっぱいいた。自家発電での小さな明かりの中で、多くの目がこちらに向いていた。こういうときは始めが肝心で、精いっぱいの笑顔で「タシデレ(チベット語の挨拶)」と言った。すると皆それだけでくしゃくしゃの笑顔を向けてくれ、まあ兎に角座りなさい、と。
拙い言葉で会話をしながら、火の前で温まる。その間にはお母さんを含む女性陣3人が麺をちぎっては鍋に入れていた。ご飯が出来上がると一番にお椀を渡される。次は3人の息子達で、その次は娘達。最後に料理をしていた女性陣3人であった。その麺は、味を付けて乾燥させた肉の他に、トマト、芋、ネギ、白菜といった多くの野菜が入っており、身体が温まる料理だった。こういうときに薦められるがままに御代りすることは身近に感じてもらう秘訣で、4杯も食べたのは僕だけであった。流石にお腹が膨れ上がった。
そのまま談笑して時を過ごすものの疲れでどうにも眠い。用意してもらった布団で先に寝させてもらうことにした。2階は一間だったので、彼らの話し声が子守唄のようになり、あっという間に寝入ってしまった。
チベットの道
・[チベット]1.全ては始まった
・[チベット]2.まさか再び会えるとは
・[チベット]3.何が足りないのかが分かった
・[チベット]4.そうは問屋が卸さない
・[チベット]5.必要な時間
・[チベット]6.チベットとはこんなところだよ
・[チベット]7.風邪+高山病+峠+夢
・[チベット]8.警察に連れて行かれた
・[チベット]9.思い込み
・[チベット]10.標高4000mにて絶景の道
・[チベット]11.チベット人の家に泊めてもらう
・[チベット]12.出発して5分後にチベット人の家に招かれる
・[チベット]13.鳥葬を見て死を想う
・[チベット]14.勇気ある撤退と旅のパートナー
・[チベット]15.チベット人の結婚式に参加
・[チベット]16.浴室に泊まる
・[チベット]17.チベットの家づくりに参加
・[チベット]18.チベットの学校潜入
コメントを残す