チベットを超えて目指す先はネパールのカトマンズ。好きな山岳小説である夢枕獏の「神々の山嶺」の舞台でもあり、兼ねてから気になっていた場所。トレッキングやカヌーも楽しめそうだし、3月末で会社を辞める友人が日本から来てくれるというので、是が非でもネパールに抜けたいと思うようになっていた。チベットとネパールの国境は成都から約3000kmの道のりである。
成都を発った初日と2日目は曇り空であり、ところどころで霧に包まれた。路面の水が跳ねて自転車と服が泥まみれになっていく。道が分かりにくく標識が不親切なため、そんな中を何度も行ったり戻ったりする破目になった。あれ、と思って道を引き返すと、間違えた交差点で標識が出ていたりする。成都から来る方面には標識はなかったぞ。人に聞いても返ってくる答えがまちまちで要領を得ない。やりにくいなあ。
(道を親切に教えてくれたおじさん)
途中から道は川に沿って登り始める。成都の標高は約500mで、まず目指している約320km先の康定の標高が約2600kmなのだから当然である。急斜面ではないが、じわりとじわりと登って行く。これからのチベット走行の良いウォーミングアップである。行こうとしているラサまでのルートがこちらで、成都からラサまでの約2200kmの間の延べ標高差が103kmあるって話なのだから、こんなのは序の口なのだ。
ちょっとした町を通り過ぎようというときに人だかりを見た。何かな~と思って僕も輪の大外に自転車を跨いだまま加わった。なにやら準備している様子で、その人々のコスチュームから察するに大道芸が始まりそうだ。これは1つ見て行こうと雨具の下に薄いダウンジャケットを着込んだ。身体が冷え切ってしまう前に立ち去ったので最後までは見れなかったが、一番すごかったのが下の動画。小さくて分かりにくいと思うので、先に少し補足すると、女の子が自分の身体を口で支えたままくるくる回る。びっくり。
15時頃に小腹がすいたので寄った飯屋では、厨房に連れて行かれて何を食べたいか聞かれた。白菜と肉を指で示して出てきた2品はどちらもてんこ盛り。ご飯も山盛り。これをサイクリストに対する挑戦状だと受け止めた僕は、この場では世界のサイクリスト代表となった気持ちで全部平らげてやりましたよ、ええ。
お腹が満たされると俄然やる気が出てくるもので、とはいっても上り坂だからそこまでのスピードは出ないけれど、快調に進んでいた。すると前方に自転車が2台が見える。同業者かな、と思って近づいていくと、どこかで見た顔。おお!まさかここで会えるとは。
右側の彼と面識があった。10日程まえに成都で会ったのだ。宿にいる僕を訪ねてきて、チベットを自転車で抜けようかと思っている、なんて話を聞いたきり会えず仕舞いだった。母国フランスからヒッチハイキングで来たという彼は、アウトドアグッズは勿論自転車も持っていなかった。まさかすでに実際走っているなんて露ほどにも思っていなかったのでびっくりした。宿で会った人を誘い込み、2人して自転車その他もろもろを成都で全て購入して、早速の出発だったらしい。聞けば成都を出たのは5日前とのこと。
こちらが彼らの自転車。
こちらが僕の自転車。
荷物の量が全然違う。重さも桁が違う、とまではいかないが数十キロはこちらの方が重い。必要最小限以外(着替えさえも)何も持っていないという彼らのようにシンプルにすれば、ここまで荷物を減らせるのだ。
道中で同様の志を持つ仲間がいるというのは、なんだか心強く、頼もしい気持ちになった。彼らとずっと一緒にいるわけではないが、今後も共に進むことになるのだった。
チベットの道
・[チベット]1.全ては始まった
・[チベット]2.まさか再び会えるとは
・[チベット]3.何が足りないのかが分かった
・[チベット]4.そうは問屋が卸さない
・[チベット]5.必要な時間
・[チベット]6.チベットとはこんなところだよ
・[チベット]7.風邪+高山病+峠+夢
・[チベット]8.警察に連れて行かれた
・[チベット]9.思い込み
・[チベット]10.標高4000mにて絶景の道
・[チベット]11.チベット人の家に泊めてもらう
・[チベット]12.出発して5分後にチベット人の家に招かれる
・[チベット]13.鳥葬を見て死を想う
・[チベット]14.勇気ある撤退と旅のパートナー
・[チベット]15.チベット人の結婚式に参加
・[チベット]16.浴室に泊まる
・[チベット]17.チベットの家づくりに参加
・[チベット]18.チベットの学校潜入
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