※話は前回のブログ、映画「ザ・ビーチ」のロケ地、から続いています。
前回のブログでは触れていないけれど、ピピ島のシュノーケリングツアーで猿がいるビーチに行った。そのビーチには船からカヌーで渡って上陸し、観光客たちは野生の猿を物珍しそうに見ていた。と書いてみたが、僕らもその観光客の中に入っていて、平気で人間に近付いてくる猿たちを特に警戒していなかった。
猿たちは人間のすぐ近くを走りまわっており、特に悪さをするわけでもない。一部の人たちは昼食で出されたパイナップルなどの食料を与えていた。
ちなみに写真の手は僕の友人で、僕は彼が猿に餌をあげる様子や、猿がパドルに登ったりと遊び回っている様子を写真に撮っていた。
無我夢中でシャッターを押していたら、横から突然猿が2匹飛びついてきた。僕は飛びつかれるまで気づくことなく、飛びついてきた猿を振り払おうとしたときには右腕を噛まれ、左腕を引っ掻かれていた。
噛みつかれた右腕には歯型がきれいに残り、血が流れていた。周りで見ていた観光客は騒然。皆一様に警戒し始めた。猿に注意という警告を与える役目がまさか自分だとは思ってもいなかった。そこまでの痛みではなかったので、とりあえず海水で消毒。少々噛まれたところの周辺がじんじんする程度だった。
噛まれたときに狂犬病が頭をよぎったが、2つの理由からおそらく大丈夫だろうと考えた。1つは狂犬病っぽい症状をした猿は見かけなかったし、ここに狂犬病の猿がいたら今までの観光客に問題が起こっているはず。過去に死人が出ていればツアーなどやっていないだろう。
もう1つはツアーガイドが何も警告を発していなかったし、彼らも結構な距離まで近づいていたから。危険だということを隠していたとしても、彼らがびくびくしていないところを見ると、問題ないだろうと思った。
その後にザ・ビーチのロケ地に行ったりして、ツアーが終わる夕暮れには痛みも退いていた。ツアーを終えて宿に戻った後、念のため病院に行っておこうと思った。日が暮れているし病院が閉まっていたら無駄足だなとか、疲れていて面倒くさいとか考えたが、何かイベントがあるならまだしも行ける状況にあるのだから、万が一のために行くことにした。
まーさかね、なんて思いながら宿から病院まで25分くらいの距離を歩いた。光る十字のマークを見つけ、閉まっていて無駄足になるという事態はなくなり一安心。小さな島の小さな病院だった。
中に入ると奥にいた人が僕に気づき、どうされましたと尋ねてくれた。事情を説明し、噛まれたところを見せる。それを見たその人は、プラスチックに入れられた一枚の紙を出した。
Rabiesと太字で書かれたその紙の右上には、今日見た小憎たらしい猿の満面の笑み。始めて見るその単語を一応持ってきた電子辞書で引くと、、、
「狂犬病」
と出てくるではないか。
それと同時にその人が何度も言っていたinjectionがワクチン接種のことだと気づく。一応辞書で引いてみると、注射。勉強になる。
狂犬病は発症したら死亡率がほぼ100%なので、もちろんワクチンを接種してもらった。予防接種を打っていない僕が接種する必要回数は1日目、3日目、7日目、14日目、28日目の5回。今後この旅で打っていかなければならない。タイの病院でこれを見せればすぐに打ってくれるから、と渡されたのがこのカード。
注射を打たれながら改めて思った。わざわざ病院が警告用紙作っているところから推測するに、過去に狂犬病の猿がいたってことだよね。そんなところにツアーで連れていくのか。多くの人が猿の半径1m以内にはいたし、猿を触ったりしている人なんて五万といたけど。
んで聞いてみる。
「愚かな僕のように猿に噛まれて病院に来る人はどれくらいいるの?」
「ん~、今日はあなたで3人目ね。」
噛まれても病院に来ない人もいるだろうから、噛まれている推定人数はもっと多いはず。この状況を黙認してて良いのか。それとも基本的には大丈夫ということか。実際のところ狂犬病にかかっている猿がどの程度いて、その猿に噛まれたらどのくらいの確立で発症するのか僕は知らない。ただ、怖いのは発症したらほぼ100%死に至るということ。リアルに死を身近に感じた瞬間だった。
宿に戻りワクチンを打ったことを友人に伝えると、俺も猿に引っ掻かれたかもしれんのだけどと言うではないか。うだうだ話し合った結果、一応病院に行って話を聞いてみることに。疲れた体に地味に応える距離は、その場の雰囲気と興奮でカバーし病院へ向かう。また来たのかといった目で見られ、友人が引っ掻かれたという事情を説明するとワクチンを打った方がいいと言うではないか。
引っ掻かれただけでもアウトなのか、、、
友人が注射を打っている間、これまでの旅のことを思い出していた。出発当初は犬や猫も相当警戒して触らなかったのに、最近はだんだん慣れてきて撫でたりしていたこと。それ以外のことでも経験が恐怖心を減らしてきていることを。もしも、をもっとシビアに考え直す必要があった。身に降りかかるかもしれない危険を想像して、それらの確立が低くても注意する。細かい警戒の積み重ねが身を守るということを、改めて認識させられた。
2人して狂犬病予備軍となり、改めて生と死について語り合った。人はいつ死んでもおかしくない、ということは頭では分かっている。でもやっぱり深く理解していないし、生き方までつながっていない。今回の出来事は一つの体験として、死を身近に感じるものであった。もしも病院に行かず、もしも発症したら、アウトだったのだから。
2010年11月8日。友人と合流してから10日目のこの日は、間違いなく彼と過ごした2週間の中のハイライトであった。別れるまでの残り数日で幾度となく話題に上がり、何度も首を縦に振って頷き合った。
「あの日はいろいろあった。きっと一生忘れることのない日だよね。」
と。
2012年10月20日追記<狂犬病シリーズまとめ>
1.[タイ]映画「ザ・ビーチ」のロケ地
2.[タイ]猿に噛まれた
3.[タイ]狂犬病予備軍の友人からメール
4.[タイ]狂犬病予備軍の友人からメール(続)
5.[タイ]後は願うだけ
狂犬病を発症した犬は水を嫌うそうですが、そこはビーチですよね。どうなんでしょうか。
とはいえ、無事を祈ります。
というかシビアな内容なだけに最後の写真で吹いてしまいましたw
飛びついてくるとは、怖いね。
今北インドにいるけど、サル結構いるんだよね。。
自分は、去年犬に二度噛まれて、注射打ってもらったよ。
それまで噛まれたことなかったのに。
一回目は、うっかり踏んじゃって、反撃されたんだけど、
二回目は、歩いてたら突然後ろから噛みつかれた。
気をつけようもないよね。
とにかく注射をきっちり受けて、お大事に!!