飛騨古川の里山オフィス「末広の家」にメディアキャンペーンで泊まった。
・飛騨古川の古民家:数寄屋づくりの里山オフィス「末広の家」に泊まってみた!
その際にちょっとした企画を立てた。末広の家や、飛騨古川について知ってもらうために僕以外の方にも記事を書いてもらおうというもの。人それぞれ感じ方が違うはずなので、多様な視点が得られるはずだという試みである。
第一弾は30歳前後の男性経営コンサルタントによる飛騨古川古民家オフィスの体験レポである。
30歳前後の男性経営コンサルタントの視点
3月21日、僕は飛騨古川にやって来た。
春一番が吹いて暖かくなってきた東京からバスで6時間。高山駅には雪が降っていた。高山駅から飛騨古川駅まで電車で15分程度だが、1時間に1,2本の電車は出たばかりで、次の電車は40分後らしい。この時点で僕は東京と飛騨の時間の流れのギャップを感じていた。
「昨日までは春らしい天気だったんですが、一気に冬の景色に変わっちゃいましたねえ」
待つのが嫌いな僕はタクシーの運転手飛騨古川の古民家さんと天気の話などをしながら、最寄り駅とメモしておいた飛騨古川駅まで向かった。どうやら雪が降るのはそんなに頻繁なことではないらしい。
他にも二言三言話をしたが、想像以上に高山駅と飛騨古川駅は離れており、上がり続ける料金メーターと心拍数に気を取られてあまりまともな受け答えができていなかったように思う。
20分後タクシーから降りると、何故か薄荷かニッキのような香りがふわりとした。
今日の宿泊場所は里山オフィス「末広の家」。数寄屋造りの古民家を有償で貸し出しているそうだ。
同じような仕組みでサテライトオフィスの呼び込みに成功した例が徳島県神山町にあるが、あちらが神山町グリーンバレーだとしたら、こちらは古川町ホワイトバレーとでも呼ぶのだろうか。雪の中に映える酒蔵の白い壁を見ながらそんなことを考えた。
末広の家は駅から徒歩10分弱の場所にあり、古民家という響きから想像していたよりもずっと綺麗でお洒落な場所だった。
「いらっしゃーい」と既に2名がリビングのこたつで暖まっていた。彼らも先ほど到着したそうだが、すっかり自宅気分でくつろいでいる。
1階はこたつに入りながら中庭を見渡せるリビングと、キッチン・寝室・風呂といった生活感のある間取り。2階はオフィスらしくホワイトボードやプリンタがセットされている。もちろん家の中ではWi-Fi環境完備。
ノートパソコンさえあればどこでも仕事が可能だが、僕はリビングが一番気に入った。外はまだ雪が降っているが、こたつと複数あるストーブのおかげでかなり暖かく過ごすことができた。
古民家が実際にできた時代はどうやって暖をとっていたんだろうと考えながらも、テクノロジーの発展による恩恵を文字通り肌で感じることができるのだ。
そして本日宿泊する6人が揃ったところでスーパーへ買い出し。コンビニも歩ける位置にあるので、夜遅くまで仕事をする日もちょっと夜食を買いに行けるのが有難い。
秋の夜長なんかは特に用がなくても古い町並みを見ながら散歩するのはきっといい気分転換になるに違いない。ただし飛騨名産の日本酒を飲んだ後は水路に落ちないように足元に注意が必要だ。
飛騨牛と日本酒を楽しみながら1日目が終了。畳の上の布団で寝るのは何年振りだろう。
2日目。天気は快晴で気温も高い。屋根に積もった雪は日光で溶けてきらきらと光っている。
今日は幸運にも年に一度の渡辺酒造の蓬莱蔵まつり。日本酒はしこたま飲んでも次の日に持ち越さないのが魅力であり魔力でもある。つまりは節制が肝心ということだ。昨日もそれなりに日本酒を飲んだが、今日だけ幻の日本酒も試飲できるとあっては行かざるを得ない。
まだ午前中だというのに蔵の前には人だかりができている。皆さん朝が早い。入り口前で粕汁を頂いていると老若男女が酒蔵の中に入っていく。どうやらここがメイン会場らしい。
それにしてもこの町、随分と若い人が多い。いや、高齢の方はもっと多いのだが、みな生き生きとしている。僕の祖母と同じかそれ以上の方々も背筋を伸ばしてお酒をぐいぐい飲んでおり、見ているこっちが圧倒されてしまった。米どころは美人が多いというが、良い米には人を若返らせる効果もあるのだろうか(もちろん前者が事実であることは間違いなさそうだ)
酒蔵の中では、吟醸酒はもちろん、袋しぼりのお酒やにごり酒など、甘い辛いだけでなく強さや食感さえも異なる多様なお酒が試飲できた。連れの5人はどこだ…と探してみると試飲できる日本酒を次から次へと注いでもらっている。元気だなあ…。
そんな地域住民と僕らのような観光客にきびきびと対応をする蔵人も若い方が多い。古川町ホワイトバレーは日本酒クラスタが大黒柱となっているようだ。
商品の大半はオンライン購入対応等、観光客をリピーターにするためのチャネル開発もばっちりだ。しかし現地で買った方が何となく思い出になるだろうということで僕も試飲して気に入ったものを一本購入。連れの5人はまだ飲んでいる。おーい、後ろに列ができてるぞ。
蔵まつりでは飲み物だけでなくチーズやお漬物のような酒肴や、酒ケーキ、酒メロンパン、酒カレーなども揃っている。特に酒カレーは飛騨牛モツをお酒で煮込んで作るという発想に感服。もちろん味も良い。そして300円という価格設定、参った!
こういった自由な発想は杜氏というプロフェッショナルな仕事をしつつもよりよい商品を出そうというマーケットの視点を持っているからこそできるのだろう。そしてそんな彼らを地元住民は自ら楽しみながら応援している。そもそも古川町の景観維持も住民全員参加で守ってきたものだ。
グローバル企業との対比としてスモールマートという言葉がある。これは単に売上高総額の高い大企業に依存するのではなく、小さな商圏内の取引が多い企業に対し資本を投下し、商圏内を循環するお金を増やす方が地域の発展に寄与するという考え方だ。
仮に古川町に大手GMSが出店しようとしても、流通は不便だし人口も小さいため、出店するためには膨大な補助金を必要とするだろう。しかし、補助金を吸って出店したところで、地元住民以外のスタッフが地元以外で生産された商品を販売するのであれば、古川町のお金は外に出るばかりで、地域住民は結局恩恵を受けることがない。逆に地元商材を地元住民や観光客に販売する渡辺酒造のような企業に投資すれば、設備投資等により生産性が高まり古川町の「貿易黒字」はどんどん増えるという仕組みだ。
そうして日本酒を楽しんだ後は、物産店を巡り、あっというまにチェックアウトの時間が来た。
それにしても、実際問題として古川町という町で仕事をするとしたらどうなるのだろう。僕の仕事は1日中PCに向かっているけれど、顧客との打ち合わせ以外は大体リモートで作業可能だ。
古民家でこたつに入りながらPCで資料を作成、行き詰ったら飛騨牛コロッケを頬張りながら白壁土蔵街を散歩して気分転換、会議はオンラインで実施、夜は日本酒を片手にブレーンストーミングというような仕事の仕方に変えたら、どれだけ生産性が上がるのだろうか。サテライトオフィスとしてでなく、合宿や研修という意味で来ることはもっとハードルが低い。そのときは誰を連れてこようか。
ふとそんなことを考えて、名残惜しみながら帰りの電車に乗るのだった。
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