喫茶店でコーヒーを片手に休んでいた。肉体的な疲労もあったが、どちらかというと精神的な疲れが大きかった。窓越しに外を眺めると、旗がなびいていた。なびいていた、とは控えめな表現で、実際はバタバタバタバタと音をたてて唸っていた。進行方向から手前側に向かって激しく揺れ動く旗を見て、僕は憂鬱になった。
そのときにいた場所は南米大陸の南端の先にあるフエゴ島のチリ側の国境付近にある小さな喫茶店。2月19日だった。16日にウシュアイアを発ち、アルゼンチン側の国境の休憩所で泊まったのが昨日の18日。そこを出発してチリ側の国境までの約15KMに1時間40分かかっていた。時速にして9KM弱。
アルゼンチン側の国境から舗装されていない道となった。パタゴニアの代名詞ともいえる強力な風は僕の顔に直撃していた。平坦な道の上を走っているはずなのに、坂道を登っているかのように力を込めないと進まない。風が横にずれるとハンドルを取られて足が地に着く。荷物が重いので漕ぎ出すのに一苦労だ。なにより不快だったのは、車やバスが通った後の砂埃。ダート路のため、奴らが通ったあとは砂を全身に浴びることになる。目はしゅぱしゅぱするし、呼吸は困難になる。チリへの入国手続きを終えて喫茶店を見たとき、まだ15KMしか進んでいないが中に入って一休みした。
「ここから150KM先のポルベニールまでは店も家も何もないよ。」
喫茶店のおばちゃんは言った。
4日分の食料を準備してきていた。問題は水である。その言葉で補給が全く出来ない可能性も考慮して、7ℓの水を積むことにした。自転車が重い。
意を決して出発するも、風はますます強くなるばかり。一時風が強くなる瞬間に自転車が止まる。スピードメーターに目を落とすと、時速約6KM。隣にビジネスマンが歩いていたら抜かされそうなスピードである。前方に広がる草原と道に気が遠くなった。
その日も夕刻に差し掛かるとぽつぽつと雨が降り出した。昨日も、一昨日も、である。降り続く雨、強くなる向かい風。ウシュアイアで出会ったライダーさんの座右の銘である
「明日には明日の風が吹く」
という言葉を信じて、今日はもうテントを張ることにした。今日の平均時速は8.2KM。
湿ったテント、バック、その他装備は居心地を悪くしていた。7年前に買ったオーストリッチのサイドバックの防水カバーの性能はないに等しかった。フロントバックの防水カバーはスーパーの袋。装備をケチっていると快適さが犠牲になることを改めて体感していた。
次の日の朝はまばゆい光で目を覚ます。朝に雨が降りやんでくれていることは毎日の救い。が、その日の風も進行方向からだった。そして次の日の風も、、、基本的に西から東に風が吹くことを学ぶ。南下してきたすれ違うチャリダーをうらやんだ。
今回の旅で自転車で行きたいところが2つあった。1つは自転車先進国であるヨーロッパ、もう1つがパタゴニアである。パタゴニアの風を自転車に乗って体験してみたかった。どんなもんかいな、なんて思っていた僕に、パタゴニアは早速言葉を投げかけてきた。
なめるなよ、と。
実際、パタゴニアの風は半端ない。歩くこともままならない場所も幾らかあった。台風並の風が日々吹いているというのもうなづける。時に荷物が飛ばされたら?・・・どこかに引っかかってくれるのを願うしかない。でなければ失くしたのと同じなのである。調理も大変だし、テントも変形する。過酷な土地。やっとのことでポルベニールまでたどり着いた。
ポルベニールから本土のプンタアレーナスにフェリーで渡る。その町の道中で話しかけてきた日本人がプンタアレーナスまで南下してきたチャリダーで、夕飯を一緒に食べた。大いに盛り上がり、話に花が咲く。一週間ぶりのシャワーと酒に酔いしれた。
ポルベニールに向かう途中で休憩していると、良い体つきをしたおじいちゃんに話しかけられた。漁師をやっており、小屋に案内されて魚をご馳走してもらった。食料が乏しくなっていたこともあり、ただただ感謝。
突如土が踏み固まっていないところを走ってしまうと、タイヤが埋もれてバランスを崩し転ぶ。こんなんばっか。
2月26日 プンタアレーナスより
写真が毎回キレイですねー!
Tokyoは寒い日が続き、最近は花粉がまっていますよー!
海外で会いたいですー!
チリの中部あたりで地震があったみたいですが、無事ですか?
プンタアレーナスは南部だから大丈夫でしょうか?
実はしょっちゅうブログみてます。
応援してますよ~!
わあぁ…大変そう!時速が10キロ以下かぁ…
雨と向かい風って、1番嫌だ(>_<)
でも景色はきれい。。
こっちは一昨日(だっけな?)に春一番が吹いて、びゅーびゅーでした!
じ、地震は?南部だからだいじょうぶ?
無事に地震レポートをこのブログに記してくれる事を祈る。