新しい自転車を手に入れ、ノッティンガムを発ったのが9月16日。陽気はすでに秋模様で、落葉紅葉が始まり、ひやりとした風が肌寒い。イギリス北部でハリケーンがあった影響なのか寒波が来ていたようで、最高気温16度最低気温4度といった数字が天気予報に表れていた。冬の気配を感じたので南下を急いだ。
新しい自転車の手配の間にピークディストリクトをサイクリングしたりドライブに行って感じたのは、イギリスの幹線道路は交通量が多く自転車で走るのに面白味を感じないということ。なので、ノッティンガムからポーツマスまでは細い道を辿ってゆくことにした。
20万分の1の縮尺の分厚い地図を使った。赤く記されている幹線道路ではなく、黄色く記されている準幹線道路でもない、白く記された田舎道を選び進む。大概の主要な道が勾配の少ないところをつないでいるということは、主要でない田舎道は必然的に山道が多くなる。
風が強い日が続いた上に、降ったり止んだりする雨。それが寒さを助長する。そんな天気の中でアップダウンの多い田舎道を走ると、快適さはゼロ。雨具を来て山道を登ると汗びっしょりで、下りに入ると濡れた服が体温を奪う。かといって雨の中でこまめに服を替える気も起きず漕ぎ続ける。休憩しようにも雨風をしのげるところは少なく、一度走りだしたら進み続ける他なかった。
そんな感じで前半戦を終え、チェルトナムのアイさん宅でお世話になる。まるでオアシスのような家でリフレッシュし、後半戦でポーツマスまで一気に駆けた。合計で450㎞強。新しい自転車を漕ぐということにわくわくしたからこそ、萎えることなく一挙に進めたのだ。
前々から気づいていたのだけれど、僕は自転車を漕ぐこと自体に多くの喜びを見出していない。移動しながらキャンプをする日々が楽しく、青空の下で休憩がてら横になる、本を読んだり考え事をする、お茶を飲みながらお菓子を食べる、そういった時間が好きだ。漕いでいて楽しみを覚えるのは一日4時間くらいまでで、それ以上はあまり漕ぎたくない。一日の中でいろいろなことして気分を変えたいし、数ヵ月単位だったら自転車を漕ぐのを一休みしてトレッキングやカヌーといった違うアクティビティをやりたくなる。一日でも数ヵ月単位でも楽しく過ごせるようにバランスを取る必要がある。
僕と違って世界を回るサイクリストには、漕ぐこと自体が楽しくて仕方がないという人がいる。毎日出来る限り多くの時間を漕ぎ遠くまで進む。漕がないことが勿体ない、漕いだ時間と距離に旅の密度が比例すると感じているような方々。
そういった人たちを否定しているのではない。僕もかつてはそうだったのだ。2004年に日本一周をしたときは漕ぐことが楽しくて仕方なかった。漕げば漕ぐほどに多くのものが見える気がしたし、漕いでどんどん先へ進みたかった。72日で7000㎞走ったわけだけれど、台風で足止めをくらった日やサークルの友人と一緒にのんびり走った日をのぞくと、一日6~8時間は漕ぎ140㎞~170㎞くらい進んでいたのだ。(今は70~80㎞くらい)
その後も日本各地を自転車で巡っている内に、今まで走ったこともないような山道や素晴らしい景色を求めて自転車を漕ぐ自分がいた。それと同時に漕ぐこと自体の喜びは減っていった。どこでもいいから自転車を漕ぎたいという気持ちはなく、素敵な道で極上の景色を見たいという欲が出てきた。そんな心の変化を経て、世界を自転車で巡る今回の旅を始めた。
自転車で旅をする人は端っこが好きだと思う。端っこというのは大抵岬のことになるのだけど、例えばアフリカだったら喜望峰をゴールにしたい、とかそういった類のもの。他に自転車乗りが持つのは自身の自転車の轍を一本の線として繋ぎたいという想い。こういった感情は僕にもある。なんちゃら大陸縦断とか横断とか、そういう響きが大好きだ。ただ、今回の旅でそれを求めることは、出発以前にやめた。
例えばアメリカ大陸を縦断しようと考える。するとそれで2年くらいかかる。ユーラシア大陸もそうだし、アフリカ大陸だと1年半くらいだろうか。僕の旅の予定期間は2年。そういうことに挑戦すると、それでおしまい。旅の計画を見てもらえば分かるけれど、行きたい場所は世界に点在しているし、せっかく2年も旅をするのだから最も行きたい場所は網羅したかった。
そんなわけでつまみ喰いみたいな形で世界を回っている。自転車で走りたいところは自転車で、そうでないところはバスや電車を使えばよいという考え。なんで自転車で走っているのだろう、と疑問を感じるような日は少なくして、わくわくする場所を多く巡りたい。より楽しく、より密度の高い日々を過ごす。心の赴くままに旅をすればいいじゃないというスタイルだ。
そんなスタンスで旅をしているので、イギリスは交通機関を使ってすっ飛ばしても良かった。ただ、新しい自転車が届いていきなり電車やバスを使うというのもどうかという想いから始まり、アイさん宅というオアシスとの巡り合わせもあり、一気に進めた。走り終えれば走って良かったな、という想いが残る。
イギリスの自転車旅を終え、9月25日の夜行フェリーでフランスへ向かった。
とある街で有名なポークパイを食べる。(ノッティンガムから南東の街だけど名前を忘れた)
5週間のイギリス滞在の内、宿に泊まったのは数日。
田舎の道はこんな感じ。
一軒家をシェアするのが一般的。ドイツもそうだった。日本が特殊なのか?
馬に乗っている人は珍しくない。
バーの駐車場で御主人を待つわんこ。
バーで一服。
夕暮れ時。暗くなったらテントを張るのだ。
知らずに走っていたコッツウォルズ地方。ツアーで多くの人が集まるほど有名な景勝地。綺麗だな、と思って何気なく撮った教会はちょー有名なところだった。
街並みが美しくて写真を撮りまくっていた。有名な場所だと知るのは後日。
こんな道もあったり。
お昼も自炊。
気が狂いそうな傾斜が続いた。
シンボルとなる教会は小さな町にもある。
がっつり漕ぐ日が昼食に自炊している時間が勿体ないので軽食
イギリスの自転車道。行き止まりがあったりとドイツ・オランダより数段劣る。
戦車!?
曇天の中での晴れ間。
基本的に風は西側から吹いていた。
小さな村落を幾つも通り過ぎて進む。
キャンプ地が見つかりにくいときは全然見つからないので、早めに場所を決めていた。
整った街並み。
ポーツマスまで来た!!
イギリスともこれでお別れかと思うと寂しい。
最後のパブ。
外でフェリー待ちが1時間くらいあって萎えた。寒い。
無事自転車を載せてフランスへ。さらばイギリス。
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