世紀の空売りの副題は「世界経済の破綻に賭けた男たち」であり、サブプライム住宅ローンの話である。それは世界恐慌の呼び水となり、リーマンショックを引き起こした。そのときに世界がおかしいと気づき、破綻に賭けた3人の男の物語である。
サブプライムローンとは何なのか。この本を読めばわかるというわけではない。むしろ、サブプライムローンが分かっていた人は世界にほとんどいなかった、という事実が分かる。誰もが分からなかったからこそ、通常あり得ないことが起きた。通常あり得ないことを引き起こしたのは、その状態はあり得ないから大丈夫でしょ、という心理だった。
通常であればローンを組めないような所得者がローンを組めるような仕組みをつくった。お金をきっちり返済する見込みが低い人がいても、そういった人々のローンを切り分けてまとめてしまえば、全員が返済しないという状況は考えにくい。その手法により、債権には高い格付けがなされた。買う人がいれば、そのお金があらたなローンに回る。それは資本市場に持ち込まれた新たな効率性だとウォール街の人は信じていた。
全員が返済できないなんてあり得ない。あり得ないから大丈夫でしょ。金融のプロでさえ実態が分かっていなかった。もちろん分かりにくく作ってあり、それは複雑で巧妙にすることにより、騙すことができるからだ。結局は自分たちもそれに巻き込まれた。しかし、結局はアメリカ政府によって資金注入があった企業も多く、救済されている。
この物語に出てくる重要人物のほぼ全員が、儲けているということが恐ろしい。ウィン・チャウは顧客の資産を運用していた。それは失敗に終わり破産となったが、手元に数千万ドルのお金が残った。ハーウィー・ハブラーは単独のトレーダーとして数十億ドルの損失をだしたが、数千万ドルのお金を手に入れた。ウォール街の大手投資銀行のCEOたちも経営する企業を破産に追い込むか、アメリカ政府の介入によって破産を免れた。にもかかわらず、高給なのである。
最終的には賢く選択をしても、賢くない選択をしても儲かる。だから賢い人はそこへ行くのだろう。リスクとリターンを考えたら、おいしすぎるよね。
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