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セルビア

「あってもなくてもよいものはないほうがいい」という考え方と生き方

投稿日:2011年7月5日 更新日:

えっこらえっこらと体を左右に揺らしながら坂道を登っていた。日差しが強く、汗がだらだらと流れゆく。北へ進むことで涼しくなっていくのと、真夏に近づき暑くなっていくのと、どちらが早いかなと思いながら峠を越えた。

風を浴びながら坂を下る。汗が乾燥していく気化熱で体温が奪われていく爽快感。曲がりくねった道に合わせて体を傾けつつ心地よくタイヤを転がしている中で、思わずブレーキをかけた。水道があったからだ。

水を頭からかぶる気持ち良さといったらない。ついでに食器を洗っていると、自転車に跨った男が上って来た。荷物の括りつけ方を確かめると同業者だと分かる。彼はフランス在住のドイツ人サイクリストだった。

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1時間くらいだろうか。いや、もっとだったかもしれない。結構な時間を話しこんだ。初めはルートの話題から始まり、次第に彼の話に聞き入った。

彼は現在40歳代前半で、年の4分の1しか働かないという。長い間続けていたコンピューター関係の仕事を辞めて、今は家を作ったり配管を直したりしている。仕事を辞めたとき、コンピューターの類とは一切かかわりのない生活に変えた。勿論、パソコンも携帯もカメラも持っていない。そんな彼の生き方を象徴していると感じた言葉を紹介したい。

「一日6ユーロあれば生活出来るのに、なんで年中働く必要があるんだい。」
「コンピューターに囲まれた生活を続けていたら、幸せになれないって気付いた。」
「どんな動物よりも人間が一番怖い。」
「イラクやアフガニスタンよりアメリカの方がよっぽど恐ろしいよ。」

前後の文脈なしにどこまで真意が伝わるかは分からない。ただ僕が感じたのは、彼は自分を深く理解しているということ。自分にとって余分なものを削ぎ落としていった結果の考え方であり生き方だと思った。

どんな動物よりも人間が一番怖い、というのは僕も常々感じていたことで、熊や豹なんかがいる場所よりも人間がいる場所でキャンプをすることに恐怖を覚える。明治時代に日本人として初めてチベットを旅行した河口慧海 の「チベット旅行記」にも同様のことが書いてあった。100年以上前からこの感覚は続いているのだと妙に納得したものだ。

イラクやアフガニスタンよりもアメリカの方がよっぽど恐ろしいよ、というのも全面的に同意するわけではないが、前々から感じていたことだった。先日読んだ「上海の西、デリーの東」の言葉を引用すると

資本主義社会とその文明は、その性格上どうしても個人の価値観を越えて肥大し続けてゆく。そこには人の為に社会があるのではなくて、社会の為に人がいる、という図式がどうしても出来あがってしまって、そのわけのわからないほど発達した構造の歪みから生ずる、歪曲した犯罪に飲み込まれてゆく者は多いはずなのだ。(p292)

国というものの発言や行動を眺めていると、人間的ではないと感じることがある。そこに権力があり、関わっている様々な人の思考や立場が複雑に折り重なると、歪みが生じてくるのだろう。世界を先導しようとしていたアメリカからはその歪みを特に強く感じる。不必要なものを削ぎ落としていった彼から見ると、気持ち悪さと嫌悪感、そして恐怖を覚えるのだろう。

「あってもなくてもよいものは、ないほうがいい」
僕が常々思っていることであり、彼が生き方に反映させていることは、この言葉に集約される気がした。

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