以前に、旅に出る前は病気と強盗が怖いと思っていたが、死の危険が最も高いのは交通事故のような気がする、と書いた。いつ交通事故に合うか分からないチャリダーは死と隣合わせとも言える。しかし、バックパッカーも十分に危険の中にいる。まさに実感したデスドライブについて触れたい。
九寨溝から成都に戻るバスは午前8時発であった。昨晩降った雪により路面が薄く凍ったためか、バスはゆっくりと走っていた。多くの後続車に抜かれていく中、突如バスが停止。運転手とその助手がエンジンをいじると再び出発した。なんどかそのようなことを繰り返した後、バスは動かなくなった。
運転手とその助手がエンジンを直している間、雪がしとしとと降り続いていた。僕を含む乗客は外に出たりバスの中に入ったりを繰り返して時間を潰すが、一向に出発する気配はない。結局待つこと4時間、エンジンが動いたのは13時であった。多くの中国人乗客がスナックを持ってきていた意味が分かった。僕のお腹はぐうぐうと鳴っていたのだ。
そこからのスピードといったらとんでもなかった。遅れた分を少しでも取り返そうとしたのだろう。路面が凍った山道を時速100kmから120kmで駆け抜けていく。前方に見えた車は全て追い越した。まさに暴走である。僕は一番前の席に座っており、フロントガラスから景色がよく見えた。シートベルトはなかったので、急ブレーキがかかったら吹っ飛ぶことは容易に想像出来た。運転手もシートベルトはしておらず、怖かったがどうしようもなかった。
視界が悪いのに対向車線に入って追い越しをしようとするので、前方から対向車が現れてブレーキなんてのも何度かあったし、中央分離帯に気付かずに対向車線を暴走しているときもあった。危険すぎる。そのレベルのときは、危険を切り抜けたときに中国人の乗客からも安堵のため息が聞こえてきた。
途中で入ったトンネルはライトがなかった。バスのライトもなかった。真っ暗な中を走っていくバス。流石に危険だと思ったのか途中で停止した。運転手がカチカチとボタンをいじっているのが分かる。だがライトが点くことはなかった。結局ハザードで幾つものトンネルを超えた。
以前にベトナムはクラクションが煩過ぎると書いたが、鳴らす理由がこのときに分かった。どう考えても頭がおかしいスピードで走っているバスは、兎に角クラクションを鳴らして周囲に注意を促しながら走る。クラクションはリズム良く1度に3回もしくは5回鳴らす。追い越しをする前に2度、追い越しをしている最中に2度、追い越し終えて車線変更するときに1度、と1回の追い越しで20回くらいクラクションを鳴らす。その他でもカーブのとき、路駐している車があるとき、人や自転車の横を通る前と通る最中、左右に路地があるとき、には全てクラクションを鳴らすのだ。さらに対向車線からバスが来るときにも挨拶で鳴らす。バスの中にいて、その音で眠れないレベルである。
中国のクラクションがベトナムよりましなのは、こういう運転をする車がベトナムよりは少ないからだろう。ベトナムはほとんどのバスとトラックがこういう運転をするのだ。前に車があったら追い越さない方がおかしい国なのである。
成都に着いたのは午後8時。無事についてほっと胸を撫で下ろした。
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