もしかするとあの日は人生の転機だったのかもしれない。もし今後、僕が虫を好んで食すことになるならば。
プーケットで晩御飯を食べるところを探していた。観光地だけあって道の両側に飲食店が連なっており、一つ一つ物色するには途方もない数。そんな中で僕らの店の探し方はひどくシンプルだった。きょろきょろと周りを確認し、安くて美味しそうなだと直感が働いた店に立ち寄りメニューを見せてもらう。メニューでまず始めに見るのがビールの有無と値段。大瓶が60~80バーツ(180円~240円弱)だったら食事メニューに移る。そこで食べたいものがあれば入店、といった具合で店探しをしていた。それでも友人との旅で使った金の多くは飲食代、特にビール代が大きく占めていたように思う。
とある夜に食事をすることにした店はフィリピン人が経営するタイ、フィリピン料理屋。ビールをメニューより10バーツ安くしてもらい(始めは交渉でビールの値段が下がることが驚きだった)、その店にすることを決めた。
頼んだのはタイの名物料理トムヤンクン。
このトムヤンクンが抜群に美味しかった。フィリピン人が作ったからなのか辛さが抑えめで、ココナッツ味が加えられ非常に濃厚な味。つまみをサービスしてもらいビールが進む。ちびちびと飲んでいる間、店に設備されていたカラオケで歌っている人達がいた。彼女らはホテルなどで歌っているプロだと言っているだけあって、聞き惚れる歌唱力だった。居心地の良い店であった。
そろそろお暇しようかと会計を済ませると、フィリピン人の1人がこれを御馳走するよと屋台で何かを買っている。
何かと覗き込んでみると、
ん?
んん??
げ、、、
こいつだった。タイに入国した初日に屋台で見つけて食べられなかった虫。無理無理と胸の前で両手を左右に振って強い拒否の姿勢を取った。すると友人が一言。旅を長く続けているのに食べれないの、と。そう言ってぱくっと食べるではないか。さらにフィリピン人のねーちゃんも食べた。
ふつふつと湧き上がる感情があった。なぜ僕は食べられないのか、と。みんな食べている。食べられない理由はない。友人も食べた。フィリピン人のねーちゃんも食べた。ここは、ノリと勢いで行くしかない!
手に取り、目を瞑り、意を決して口に放り込む。奥歯で噛んでみると、始めに虫の足がバキっと音を立てた。そして胴体がむしゃっと潰れる。想像するから気持ち悪いのだが、こればかりはどうしようもなかった。気持ちとは裏腹に、味は普通。一匹食べ終えてみると、何か壁を超えた気がした。レベルが上がったような気分だった。
その後フィリピン人と談笑していると、タイ人の中にはゴキブリを食べる人もいると言うではないか。話を聞いただけで眩暈がした。うそでしょ、、、
それをトライする日は一生訪れないと思うけれど、虫を食べたことは僕の人生で偉大な一歩かもしれない。
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