自転車の盗難にあって考えたこと[自転車世界一周中オランダアムステルダム]

日本の終戦記念日である8月15日に、オランダのアムステルダムで僕の自転車が盗まれた。3日経った今でも信じられないような気分だ。盗まれた日にはライデンから友人カップルが車で迎えに来てくれて、残された6つの自転車用バックに詰み込まれた30kgくらいの荷物と共に友人宅へ連れていってもらった。1人で過ごしていたらどれだけ落ち込んでいたことだろう。今日までリラックスした日々を過ごしてきて、心が落ち着いてきた。今回の盗難の件で感じたことがあったので、風化しないうちに文章にしておこうと思う。

僕は物への執着があまりない方だ。高校生のときに、買っていた漫画などを集めるのを止めた。それをきっかけに物を手元に置くことを避け始めた。必要なもの以外は買わなくなり、本質的に自分にとってなくても良いものは買わなくなった。1人でいるときに多くの時間を割く本と漫画に関して言えば、本は図書館で借りて読み、漫画は漫画喫茶で読む。生活必需品以外で買うものはコンピューター関係のものかアウトドアグッズくらい。東京での生活を終えて旅に出る前に引っ越しをしたとき、段ボールが6つであったことがそれを物語っている。2つは服、2つはアウトドアグッズ、2つは本と写真と雑貨だった。

この旅を続けている中で持ち物が破損・紛失したり盗難にあったとき、やっちまったなーって感じるだけだった。物のトラブルは、結局はお金で解決する問題だから。カメラが盗まれて写真がなくなったときはショックだったけど、自分の身体以外で大事だと思っている「写真のデータ」と「出会った人々の連絡先」はまめにバックアップを取っているので被害は少なかった。よって自転車を盗られたときも、あらま、っていう感じだった。なぜなら物であったから。

ただその後に襲ってきた感情が今まで物を失ったときとは大きく異なっていた。

8月15日の朝に盗られたことに気付き、午前中には警察に報告し、夕方に友人が迎えに来てくれる目途がたった。午後に空いた時間が出来たので、気晴らしにアムステルダムの街を散歩することにした。宿で出会った人と一緒に出かけたが、迎えの時間が迫ってきたので別れて1人になった。それまでは慌ただしく動いていたし、人と一緒だったから感情が表に出ていなかったのだと思う。1人になった途端に目から涙が溢れてきて止まらなかった。拭っても拭っても涙は流れるばかり。心がはち切れそうだった。

乗っていた自転車は「物」だけれど、そこに愛を持っていた自分に始めて気付いた。同じものを新しく買えば良いわけじゃない。すでに唯一無二の存在だったのだ。カナダのユーコン川カヌーとネパールのトレッキングの期間を除けば、ほぼ24時間一緒にいた自転車。旅の開始から524日目に盗まれたことを考えると、450日くらいの期間を四六時中共にしたのだ。チベット付近の苛酷な道では命を預けていたとさえ言える。1年を超える年月の間で育った愛に、僕は気付いていなかった。

失ってから失ったものの大切さに気付く。過去に何度か経験したことから、本当に大切なものを大切に出来る人になりたい、と思うようになった。僕が大切だと思っていたのは、家族や友人、健康など。物にここまで心を動かされるとは想像もしなかった。愛着を持ったものがここまで大事な存在になりえることに驚かされた。

盗まれたこと、ほぼ見つからないであろうこと、それらの事実を頭では認識している。ただこの状況を踏まえてどうしたいのか、というところまでは見えていない。正直なところ、心が考えることをまだ拒否している感じ。ただ、この事件が起こったことに何か意味があるような気がするので、それと真摯に向き合ってみたいと思う。飽きるかも、なんて思って始めた旅が面白すぎて、気付いたら旅の日数が500日を超えていた。勢いと流れで世界を巡っていた。

旅の終盤を迎える前に、どういう形で旅を終えたいのか考えてみなさい、と言われているような気がしている。







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4 件のコメント

  • 気持ち、何となく想像つきます。たかひろの想いが痛いほど伝わってくる文章でした。身体は無事でなにより。

  • 僕も自分のザックにはかなり愛着あります。どんなつらい山行も共に過ごしてきましたし。一時はもっと軽いものがいいと思ったり、今はだいぶ臭くなってきましたが、何回でも修理して使い続けたいと思います。
    たかひろさんの心中ご察しします。
    またいい相棒に出会えることをねがいます。

  • 自転車さんへの愛が痛いほど伝わって来ます(;_;)
    とってもとっても大事な仲間だったんですね…
    なんだか、『星の王子様』を思い出されました…
    なんとか奇跡は起きないでしょうか(>_<)??自転車さんと再会出来ることを切に願ってます!!

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    管理人のたかです。1984年4月20日生まれ。不動産会社での開発業、自転車世界一周、地域おこし協力隊を経て、愛知県新城市の古民家で宿泊事業をはじめました。SNSでフォローしていただくと最新記事を読むことができます。よろしくお願いします。